漂う手紙

生活と思想。遺書とラブレター。時に真似事。

漂う手紙

日々の思いをただ書き連ねていた

その日考えたことが私を形作っている

そう思って

ただ連ねていた

誰にでもない

私に向けて

これは日記ではない

 

以前よりもひとりでいることが増えた

孤独を知って

より愛を意識した

苦しくて悲しくて

ただただ言葉にした

誰に伝わる訳でもない

私のための言葉

私だけの言葉

止められず流れるように

連なっていく言葉

 

ふと

 

ふと読み返してみたら

膨大で途方もなく

下へ下へと切りがなかった

繋がる言葉

すべて私の言葉

私のための言葉

なんだか素敵な言葉たち

そう思った

そう思った瞬間

 

消えてほしくないと

願ってしまった

 

ありふれた機器の

ありふれた機能に

連ねていた言葉は

些細なことで消えてしまうと

気がついた

それは水か衝撃か

はたまた電波を介して

何にしても物理に破壊される

その瞬間

きっと私の心も破壊される

そんな気がした

この手に納めているだけでは

余りに心許ない

言いようのない不安を感じた

 

どうしようか

 

紙に記そうか

文字を書くのも好きだから

そうしたらきっと素敵なものが出来上がる

そう思ったけど

そんな余裕なかった

そんな余裕ないでしょ

 

ならば

既に電気信号である言葉たちを

網目に漂わせようと

そう思った

世界を蹂躙する網目に

一度漂わせてしまったら

それは一生消えることはない

消したいと願っても決して消えることはない

あの言葉が教えてくれた

たとえこの機器が終わりを迎えても

消えてなくならない

願ってもないじゃないか

私が死んでもなくならない

私の手の内を離れて

誰の言葉なのかもわからない

もしかしたら誰かを救うかもしれない

私も世界の一部になれるかもしれない

そんな欲はさて置いて

この手段を取るべき他はないだろう

 

誰に伝わる訳でもない

私のための言葉

私だけの言葉

漂ってくれ

精神のように

そして

いつか誰かに届くようにと

そんな余白を残して

私は手紙を書く

 

 

いつの日か

私のための手紙は

漂って漂って

私を置き去りにする