漂う手紙

生活と思想。遺書とラブレター。時に真似事。

毒薬

 

私たちは愛を欲している

私たちは愛を探している

私たちは愛を求めている

私たちは愛を与えている

私たちは愛を伝えている

私たちは愛を

私たちは

 

私たちは愛がなければ幸せではないのでしょうか

私たちは愛がなければ幸せにはなれないのでしょうか

私たちは愛をすでに持っている

私たちは愛を持っているのに争っている

私たちは愛に気づけない

私たちは愛に気づかなければ幸せではないのでしょうか

私たちは愛を理解できなければ幸せではないのでしょうか

私たちは愛を理解できない

私たちは愛を知らない

私たちは愛を知らなければ幸せにはなれないのでしょうか

私たちは愛を

愛とは何なんだろう

私たちは愛を求めなければ生きていけない

そう造られた

それが人間の宿命

悲しき性

生物の本能よりも強く強制された

私たちは愛を求め続ける

脳内麻薬、ホルモンに支配され

欠ければ求めて止まず狂いだす

突き進むは破滅の道

身も心も滅すことになる

適量を知らなければ毒だ

それを誰も知らない

愛はあればあるほどいいと

みんなそう思ってる

何故だろう

それを美しいと錯覚しているんだ

世界は美しい

人間は美しい

信じきっている

そう、信じていた

信じていたはずなのに

気づいてしまった

何てことだろう

私はこの世の理を解いたつもりでいた

そして俗世から勝手に切り離されたつもりで悦に浸っていたというのに

さらにその先があるなんて

まるで逆じゃないか

どうしよう

私はもう喜べない

純粋に喜ぶことができない

愛を讃える人々を

様々な愛を高らかに説く人々を

愛の素晴らしさを信じる人々を

もう共にはいられない

私は見ている

どこか遠くで

愛に狂った人々を

憐みなど持ちたくはない

可哀想な私たち

私もただそこに居たかった

そうしたらどれだけ幸せだったろうか

愛のうたをただ歌っていたかった

心にも無い言葉となる前に

もう少しだけ震わせていたかった

そんなことを考えながら

私は今日も愛を求めて

あなたの隣で眠る

 

 

 

 

塩の音

 

 

あなたの歌は美しい

世界を愛しているが故

喜びも悲しみもすべて受け入れ

儚くも気高く立ち尽くす

あなたの歌声は言葉は

私の傷を優しく塩水に浸している

私はその声を聴きながら

静かに眼を閉じる

そして身体中に沁みている痛みを

余すことなく感じる

何ひとつ溢さぬように

そしてゆっくり眼を開けて

美しくも残酷な世界を

ただただ脳裏に焼きつける

私の中にある痛みと

外側から入る痛み

どちらも等しく受け入れて

ふとしたときに涙として排出する

立ち尽くしたまま

あなたの声を聴く

それから眠りに落ちて

また明日は歩き出す

あなたの歌を口遊みながら

おやすみなさい

 

大罪

 

 

私はいったいこの人生でどれほどの罪を犯してきただろうか

 

無神経な言葉

無知故の配慮のない言葉

未熟故の感情のままの言葉

思わず吐いて出た固定概念塗れの言葉

身を守るための嘘

熟考したが故の誤ち

 

どれも意図して犯したものじゃない

そんなつもりじゃなかったのに

なんて言い訳は通用しない

罪は罪だ

業務過失致死

私たちは生きている限りその罪を背負う

こんなこと言ったってそれを本当に意識する人はこの世にほとんどいないでしょう

気が付かぬ人は気楽に生き、あの世へ行ったら天国に行けるなどと安易に言う

気が付いた人は苦悩に苛まれ身を切るような思いをしながら生き延びて、天国へ行けるなどとは到底口にはしないでしょう

気が付いても、気が付かなくても、死んだら行き先は皆同じだ

何も無い混沌の世界

どれだけ憎んだ相手でも、これ以上ないほど愛した相手でも

皆境目もなく揺蕩うのみだ

罪を犯した者たちの末路

そう

でも私たちはそうやって生きている

些細な大罪を絶えず犯しながら生きている

そうして犯した罪たちを大切に大切に

慈しみながら生きていく

だから私たちは美しい

美しくも素晴らしい世界に生きている

 

私は生きている

無数些細な罪とひとつの重罪

一生背負って生きていく

何度訊かれようと誰が何と言おうと

これは私の罪だ

許されていいはずがない

その罪たちがこの先どれだけ私を傷つけようと

私は逃げない

痛くて痛くて堪らなくても甘んじて罰を受ける

それが罪を犯した私の責務だ

揺蕩うあの子にとってはどうでもいいこと

どれだけ私が罰を受けようと知ったこっちゃない

それでいい

私が決めたことだから

あの子には関係ない

 

 

 

 

 

不機嫌

 

 

不機嫌なのね

でも言わせてもらうわ

あなたがどうしたいのか

私にどうしてほしいのか

それを言わずに

伝える努力もしないで

そんな不遜な態度とるなんて

ただの怠慢よ

大人なんだから

人に機嫌を取らせないで

自分で取りなさい

私がいつまでも下手に出ると思わないで

愚痴を言うのは簡単なの

不満を抱く前に自らの行いを省みて

何か足りなかったんじゃないの

だから私がこんなこと聞いているの

それで機嫌を損ねられても自業自得でしょう

人に当たらないで

私はもう疲れた

少し時間を置きましょう

 

 

どうやら私も同じのようです

私も言わなすぎるところは悪い癖です

治すべきところです

もう少し楽しくお話しできるかもしれません

寛ぐ時間を妨げられるのは不快です

私にもよくわかります

ですがそれは伝わらない

言わねば伝わらない

ほんの少しの気概が必要です

心地よく生きる為

いざ念頭に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生理のせい

 

 

私は不安である

漸くあなたとの生活が目前にある今

あなたのその態度が怖い

無視無言

私の言葉は素通り

聴こえているのに

なかったことになる

何も言えなくなる

喉が詰まる

私が悪かったのでしょう

私がもたもたしているから

あなたの適したときに適した動きができない

あなたのやる気を挫かせる

それが不満なのでしょう

私が喉を詰まらせ

口が少し強張り

涙を浮かべそうになるのを

あなたは気づいているのでしょうか

本当は気づいているのでしょう

優しさなのか当てつけなのか

機嫌を損ないながらもぶっきらぼうに話すあなたを横目に

私はいつも嘘をつく

平静を装っている

あなたの態度で一瞬にして傷ついた心で

ゴミが入ったふりして涙を拭く

優しく声かけてみたり

笑ってみたり

怒れたらどんなにいいだろう

生理のせい

そうなんでしょう

こんな涙

仕事もまともにできないし

生理のせい

早く寝ましょう

不安に駆られて何にもできない夜だから

あなたのベッドは気持ちがよかったね

その顔でいつもいてほしいの

私も心地よくいたいよ

セックスできなきゃあなたは知らんぷり

自分からは手を出さないの

私のことなんてどうでもいいの

あなたが気持ちよければそれでいいの

そうなんでしょ

私がどれだけ待ち侘びていたとしても

どれだけあなたを欲していたとしても

あなたは知らんぷり

優しいときもあるけどさ

そっちのがレアじゃない?

ああなんだか疲れちゃった

自分の感情に疲れる

寝よう寝よう

明日は頑張る日でしょ