漂う手紙

生活と思想。遺書とラブレター。時に真似事。

満たされた空しさ

酷い話だ

あの子は私に縋る他なかったというのに

私はそれを重荷に感じていたんだ

 

私はいつだって人目を気にしてる

だから私を見る目にはすぐ気づく

私のことなんて見ないで

気にしないで

放っておいて

見られて私は消費される

 

それはあの子に対しても同じだったのね

きっとそう

あの子には私しかいなかったから

私を見るしかない

私に訴えるしかない

それなのに

外で消費されてきた私にはそれを受け止めるだけの力も残されていなかった

だからあの子の目がどうしようもなく重たかった

放っておいてほしかった

 

放っておいたのは私でしょ

あの子がいなくなって私は悲しかった

どれほど嘆いたところで戻っては来ない

どうしようもないほどの絶望と後悔

嗚呼もう

それなのに

私は今酷く落ち着いている

胸を締め付けていたものが取れて

とても温かく心地よさまで覚えている

あの子が私の一部になったから

それもある

でもそれだけじゃない

ひとりになって

消費された私にとって本当の安息ができた

見られることがなくなった

あの子が私を求めていない

それに安心しているんだ

軽くなったこの身を喜ばしくさえ思っていないだろうか

いなくなってほしかったとは思っていない

もっと生きていて欲しかった

まだあたりまえでいてほしかった

その声を聞きたい

撫でて匂いを感じたい

綺麗な思い出ばかり並べている

ふいに湧く後悔に咽を絞られようと

あの子の苦しみに髄を握られようと

私は軽くなったこの身を悠々と享受している

のうのうと生きている

最悪

そして私は

心地のよい無関心を与えてくれる

あの人を求めて

したたかに幸せを掴もうとしている

あの子の死を踏み台にして

体のいい訳にしようと

虫がよすぎるね

この空しさはきっと消えない

これからもずっとずっと共にある

忘れてはいけないもの

あの子と生きられたことは私にとって大切なことだった

あの子は今も私の中で生きている

悲しみと共に私の中で息づいている

それが私の生きる力

きっとこの先も変わらない