漂う手紙

生活と思想。遺書とラブレター。時に真似事。

 

 

私は人を殺そうとしていた

名前もわからない人を

己れの人生を害する者だと信じ

存在ごと消さねば我が道をいけないと

そう信じ

自殺に見せかけて

もし殺人と疑われたとしても

血の繋がらない兄妹へと疑いが向くように

虎視眈々と

実行へと移そうとしていた

己れの人生を確実とするために

そして実行の日

私は明朝駅構内にいる

そして標的のもとへと静かに向かう

明るく生温い空気と湿った冷たい空気が入り混じるそんな朝

コンクリの階段を登り

息を殺しながら扉へと進む

鼓動が跳ねる

息が切れる

体が重い

私はこれから人を殺す

私の人生のために

そう決意したのに

苦しくて堪らない

ふと

人を殺したらそれも私の人生についてくる

そう気がついた

一生逃げられずに苦しむことになる

そんなの嫌だ

清々しく生きられない

そもそもこの人にそんな価値はあるのだろうか

殺してまで手に入れたい人生とはなんだったのだろうか

今こんなにも身を切って成そうとしていることはなんなのか

突然何もかもどうでもよくなった

ふらふらとその場を離れ

暗く湿った階段を降りる

明るく乾いた日差しの下へ

清々しく

すべてを受け入れても生きていける

そんな気がした

悪い夢だ

夢だったんだ

目が覚めて安堵する

そして

殺さない選択をした私を誉めて

今日という日を歩む